episode58 くそ喰らえ inserted by FC2 system





蝉が五月蝿い。


かつてはこの音は俺をいらだせていたのに・・・


今は本当に心地いい鳴き声だ。





どんなに手を伸ばしても届きやしない・・・


どんなに焦がれても絶対に届かなかった・・・


あれだけ遠くにあって、手に届かなかったモノが・・・今目の前に。


心の底にねじ伏せていた感情が・・・強引に掛け登ってくる。


心の感情のダムに大きな亀裂が走る。


止めようと止められない涙が頬をつたる。


拭っても拭いきれない涙が袖を濡らす。

















零次「・・・・・・・・・・・・・」


浩二「今なら、間に合うから。さぁ・・・俺達と戦おうぜ・・・!」


零次「・・・・・あぁ・・・」


浩二は立ち上がる。


真治の方へ向く。


浩二「・・・・・兄さん・・・・・」


真治「浩二・・・零次・・・」


浩二「俺・・・僕・・・ちょっと疲れた・・・よ」


浩二は膝からガックリ落ち地面に倒れた。








真治「・・・零次」


零次「・・・・・」


零次はゆっくり立ち上がり真治を見る。


その目は真治のよく知る優しい零次の目だった。





真治「零次・・・」


零次「・・・・・畜生・・・畜生・・・




















 あ・・・兄貴いいいぃいいぃいいいぃ!!





真治「何を今更・・・」


零次は優しく零次の頭に手を乗せる。


真治「今度は見失うんじゃねェぞ・・・?」


零次「・・・・・・・!」


真治「俺らの絆をw」














エンザン「は〜い。しゅーりょー」


真治「!?」


エンザン「おいおい・・・何だ?さっきから見てたら家族なんやらうるせーな」


零次「・・・・・」


エンザン「やっぱりミステリオ様の言っていた通りだwww


真治「なに!?」




エンザン「奴は時期にまた裏切るってなwww


真治「なんだと!?」


エンザン「いつかいつかと待ってたら、コイツは傑作だぁww」


真治(マズイ・・・今は俺は戦えないぞ・・・?)


エンザン「じゃ・・・二人まとめて死んでくれよ^^


エンザンの足元が紫色になっていく。


真治「くそっ・・・!またアレか!?」


エンザン「この技に攻略法はないぜwww?」


真治「チッ・・・くっそ!」

















零次「あるぜ?攻略法ならここに・・・





そこに零次は居た。


さっきとは違う、大切なモノを護る目をした青年が。


エンザン「あるだとww?まぁ、いいけどwww
     ちなみに言うけど、俺もお前の技全部知ってるからねww」


零次「あっそ。だからー何??」


零次はいきなり目の前から消える。


エンザン「おw?」


エンザンは特に慌てる様子もなく立ち尽くしている。


エンザン「太刀を後ろから振りかざしてくる・・・と見せかけて・・・」


エンザンの言う通り零次はエンザンの背後に回り込み太刀を振り落とそうとしていた。


エンザン「蹴りかかってくる・・・っと」


見事的中。


エンザンは華麗に回避する。


エンザン「パターンは全部読めてるぜw」


零次「くそ・・・!」


エンザン「ポイズン・フィールド!!」


零次はこの技名を聞いた途端、反射的に飛び上がる。


エンザン「待ってたぜwwこの時を!!」


エンザンも飛び上がり零次の水下を殴る。


零次「ぐっ・・・!」


エンザン「あの黄緑色帽子と殺り合ったのに、この動き・・・やるなっw」


零次「ヘッ・・・まぁな」


とは言いつつ、体中から血が吹き出している。


エンザン「無理すんなってww」


零次「無理してんのは・・・お前だろww!?」


零次はエンザンと距離を取る。


零次(つっても・・・どうすっかなぁ・・・もう目眩してきたぜ・・・)


エンザン「何が故、そんな弱小軍に入る!?ミステリオ様の元へ行けば救われるのに・・・!」


零次「だから馬鹿なんだ・・・お前らは・・・俺は気付かされた。だから・・・分かる・・・自分の愚かさが」


エンザン「もういいぜ、零次。正義とか家族とか絆とかもうウンザリなんだよ・・・
     ただ唯一認めてくれる・・・絶対的存在が俺には必要なんだよ・・・そんな軟弱なモンにすがる必要は俺にはもうねェんだよ」


零次「前の俺と同じじゃねェか・・・過ち、それに気付いた時・・・後悔したってもう遅いんだ」


エンザン「あーうるせぇうるせぇ!もう死んじゃえよww」


零次「・・・・・・真治。下がってろ」


真治「・・・零次」


零次「チッ・・・不覚にもアイツに丸め込まれちまった・・・」


零次はチラリと倒れている浩二を見る。


零次「だからこそ、俺は戦いたいんだ・・・みんなのために・・・もう後悔しないために」


真治「零次」

















零次「おぅ・・・俺は"零次"。防衛軍を護る盾になる男だ・・・








エンザン「死ね!」


零次「さぁ・・・いこーか」




零次の目付きが変わった。
そして周囲の空気も変わった。そう・・・






彼はこの時点で・・・覚醒したのである。









真治「なっ・・・アレは覚醒!?まさか・・・浩二と殺りあった状態はノーマル!!??」


エンザン「やっぱあんたは末恐ろしいよ。本当に・・・」


零次「行くぜ」








誰よりも皆の力になりたかった。


誰よりも皆を救いたかった。


心の底ではソレを無意識にねじ伏せていたのに。


それをまた思い出させてくれた。


こんなボロボロになって・・・自分のことなんかより他人を護りきる。


かつては、それを笑い飛ばしていたのに。


俺はそれを裏でこんなにも焦がれていた。


それを気付かせてくれた皆を・・・護るのが俺の一生の償いだと・・・俺はそう思う。








頑張ろうぜ、浩二。お前と俺は・・・それが一生を賭けて果たす使命なんだ。








零次はエンザンに斬りかかる。


エンザンは後ろに体重を乗せ回避する。


エンザン「何回やっても同じだろうがッwwwwwwwwwww」


零次「そうだな


零次はニンマリ笑いエンザンを見る。


エンザン「・・・・・(ゾク・・・
     つくづく恐ろしい男だぜ・・・あんたは・・・」


零次「"絶対零度"!!!!」


エンザン「しまったっ!!」


エンザンの体はあっという間に凍りつき動かなくなる。


エンザン(なんだと!?こんな速く絶対零度を発動することなんか出来たのか・・・これが覚醒・・・なんてヤツだ・・・)


零次「これで今生の別れだな・・・エンザン」


エンザン「畜生畜生!!!」


零次「さ・・・早く終わらせようか」


エンザン「・・・何故防衛軍にこだわる・・・?」


零次「あん?」


エンザン「何故こんな弱少軍よりd.gの方が勝っているのに・・・お前はそれを望む?」


零次「まだ気づかないのか?ならオシマイだな」


エンザン「何故だぁああああああぁぁぁああぁぁあ!!!!!!!!!!!!」


真治「クッ・・・零次!!やめろ!相手を殺す必要はない!」


零次「それが駄目なんだ。兄貴。」


真治「・・・?」


























零次「あの世でミステリオに会ったら伝えてくれ。
 テメーの創る世界なんざ・・・  "くそ喰らえ"ってなッ・・・・・・!!!












凍ってるエンザンの体を太刀でひと振りし粉砕した。


エンザンは・・・死んだ。


零次「終わったか・・・ほんとに終わったんだな・・・」


真治「零次、何も殺す必要は・・・」


零次「ダメだ、それじゃあ・・・前と変わらないじゃないか・・・何一つ」


真治「まぁなによりお前が帰ってきてくれて嬉しいよ。
   まだメンバー達と打ち解け合うのは難しいかもしれないけど・・・頑張れよ!


零次「分かってらぁ・・・でもあんまり馴れ合うつもりはないぜ。」


真治「それは好きにしろww」


零次は覚醒を解除すると真治に一言告げ姿を消した。


きっと皆に気を失う姿を見られたくないんだと思う。


全く・・・そこは変わんないんだな・・・www






ハァ・・・ハァ・・・





「やはり、隼人じゃ勝てないよwww無能な兄じゃwww」





隼人「く・・・・・くそ・・・」


頭ん中がグルグルしていやがる。


これじゃまるでミステリオじゃないか・・・


自分を見失いそうだ。


これが・・・"催眠術"・・・


弱点が・・・ない。


光斗「聞いてんのか!?オイ!
   時期この町も終わる。そして新世界が始まる・・・ククク・・・」


隼人「そんなん始まらせるか・・・!!!僕達が止める・・・止めてみせる!!!!!!!!!」


隼人は足を光斗に振り落とす。


光斗は回避すると再び隼人の目を見る。


瞳孔が紅色に染まる。


隼人(し・・・しまった・・・!)


光斗「あーあ・・・ご愁傷様wwww」


隼人の頭の中に過去の過ちが何度も何度もリピートしてくる。


それは想像を絶する痛みだった。


隼人「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


隼人は頭を抱えうずくまる。


光斗は隼人の髪の毛を掴むと思いっきり殴り飛ばした。


光斗「どうだ!?苦しいか!!??痛いか!!!???そうだろうな!
   だから言ってるだろ!?お前は一生誰からも認められないんだよ!!!!ふははは!!!」




認められないか。


隼人の頭の中に弟が死んだアノ瞬間が蘇る。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・・・・・・・・・!


誰か助けてくれ・・・











誰か・・・